
Ancient Beginnings
千年の歴史
千年にも渡る歴史を持つ備前焼。
日本六古窯のひとつである備前の小さな村で、作家たちは長い時をかけその技を磨いてきました。長い伝統を継承してきた先人たちに学びながら、みずから挑戦を続けてきた多くの若き作家たち。彼らは技術と美意識を現代に引き継ぎ、伝統と熟練の技をさらに揺るぎないものへと発展させています。
GENSOでは、新進気鋭の若き作家たちの伝統美とモダンデザインを融合した作品を、選び抜いて紹介しています。

Wabi-sabi, Japanese Aesthetics
侘び寂び(わびさび)
備前焼の根底にある理念は、「侘び寂び」。
それは不完全性と時の流れによる変化の中に美を見出し讃える、日本の伝統的な美意識です。苔がむし、埃がつもり、傷ができる。そうした時のもたらす変化が、物、そしてときには人を、個性に磨かれた、唯一無二の存在にしていきます。
わびさびという言葉は、「侘び(質朴)」と「寂び(孤独)」という言葉を組み合わせた備前焼の基本理念であり、作品ひとつひとつに宿る自然の素朴さと非対称性の美を称えています。

No Added Glazes or Paints
自然のままの美しさ
穏やかな瀬戸内海に囲まれた岡山県備前市は、備前焼のふるさとです。小さくも高名をはせてきたこの村は、「土と炎の芸術」として名高い備前焼の発祥地です。
自然と偶然性の力から素晴らしい作品を生み出す備前焼は、純粋でシンプルです。何世代にも渡って培われてきた職人たちの比類なき技術と、この地から生まれる美しく豊かな自然とを融合させ、釉薬や塗料を一切使用しない、唯一無二の作品を作り出します。備前焼は、卓越した技術と自然のなせる業なのです。

Artistry, Applied
芸術性と実用性
ひよせと呼ばれる、地元産の粘土のみを原料とし、比較的低い温度で時に2週間以上もかけて焼かれて作られる備前焼は、美しさだけではなく優れた機能を持っています。
その耐久性の高さには目を見張るものがあります。また、釉薬や塗料を使用していないため、多孔質であるのも特徴です。備前焼に活けられた花や植物は長持ちすると言われています。これは、器の表面の微細な穴から、より多くの酸素を吸収することができるためと考えられています。同様に、多孔質であるため、飲み物や食べ物がが冷めてしまったりぬるくなってしまうのを防ぐ効果もあるのです。
備前焼は芸術性と実用性を兼ね備えた器として、とりわけ茶人の間で、長きに渡り高い人気を博してきました。その機能的な美しさから、備前焼は国の重要無形文化財にも登録されており、近年は“ミシュランの星付きレストラン”でも採用されています。

Sustainability
サステナビリティ(持続可能性)
自然は備前焼の核をなすものであり、作家が作り出す全てのものを形作っています。それゆえに、サステナビリティは備前焼にとって重要な課題です。備前の地域社会は、その豊かな森を守るために懸命に努力しています。作家たちは粘土や水、薪などの地元産の素材を使って作品を制作しています。このような自然を守る努力や自然への深い畏敬の念が、備前焼を持続的に発展させてきました。

Heart & Hands
“技と心”
Destiny
運命
備前焼の作家にとって、その道を歩んだのは、運命といっても過言ではありません。多くの備前焼作家は、何世代にも渡って技術を受け継いできた備前焼の名家に生まれています。
GENSOの作家の一人、森敏彰は、備前焼の窯元を受け継ぐ“森家・宝山窯の19代目”。幼い頃から備前焼の世界に触れてきた彼らは、慣れた手つきでいともたやすく土から器を作り出します。しかし、修行を経て独立し、活躍するまでには、我々の想像を超える努力と苦悩が伴います。ある者は人間国宝に師事し、ある者は一流の美大で研鑽を積み、またある者は海外に留学して美的センスを磨くなど、身の振り方は様々です。GENSOの作家たちは、まさにその代表格と言える、新進気鋭の選び抜かれた若手作家たち。彼らは、備前焼の伝統と哲学を受け継ぎつつ、その卓越したセンスと技術を駆使して、より高次の美を実現するために、美的表現への挑戦を常に行っています。これは、彼らが人生をかけて追求する長い旅路なのです。
Material
素材
備前焼の特徴のひとつは、粘土、水、薪といった地元の良質な素材を活かしていることです。
原料となる粘土は、備前焼の美しさの要です。備前は手つかずの自然にあふれた山々に囲まれており、五千年以上前にできた地層がそのまま残っています。「ひよせ」は、この地の田んぼの底の地層から採集される、有機物を多く含む濃い色の粘土です。備前焼作家たちは、この「ひよせ」に、山から採れる明るい色の「山土」を混ぜて使います。これらの粘土は、長い時間のかかる低温焼成に適しており、備前焼の美しさと機能性をもたらしています。もうひとつの不可欠な原料は、薪です。備前焼作家は、ほとんどの彼らの作品に昔ながらの薪を使った窯で作っています。松の木が多い備前の地は、備前焼作家が伝統的な製法を続けるのに必要な原料を提供してくれています。
Crafting Process
制作プロセス
備前焼は、作家の個性や美意識が表現される工芸品です。その独特の制作プロセスは、時に数ヶ月もの時間がかかることがあります。
Clay Preparation
土づくり
釉薬や塗料を用いない備前焼においては、他の多くの陶芸品と異なり、原料となる土を深く理解するところから始まります。備前の作家たちは、採土された粘土を乾燥させた後、粉砕し、浸水して溶かし、ブレンドし、状態を安定させて保管します。この準備作業では、それぞれの粘土の特徴を深く理解している必要があり、特にブレンドの工程では、無限の組み合わせが可能となるため、作家たちは日々試行錯誤を続けています。備前焼の作家たちは自分の創造力や表現力を広げるために、常に新しい種類の粘土やブレンドのバリエーションを探求しています。
Forming
成形
数週間の準備期間を経たのち、備前焼作家はいよいよ成形に取り掛かります。日夜自身の理想を追い求め、卓越した職人の技と独自の美的センスで、自身の創造力を土に宿します。この段階は、構想まで含めると、完成まで2ヶ月以上を要することもあります。
Firing
焼成
最後は、自然の力で備前焼に命を吹き込む焼成のプロセスです。多くの陶芸品が電気窯で焼成されるようになった中、備前焼の作家は、自然の美しさを真の意味で表現するため、薪窯にこだわります。自然の炎は、時間によっても、窯の中の場所によっても変化するため、作家本人さえ完璧には予測できないほど多彩な模様や色合いを生み出します。自然の炎の不思議な力で、備前焼は人の想像を超えた美しさと偶然性を表現します。備前焼作家たちは、薪窯での焼成期間中、二週間以上も寝ずの番をし、猛暑に耐えながら見守ります。
備前焼は自然の炎を利用していますが、近年ではガス窯を導入し、白を基調とした作品を作ることもあります。ガス窯を使うことで焼き物が煙に触れないようにできるため、美しい白色を出すことができるのです。伝統的な職人技に現代の技術をかけ合わせた、象徴的な手法といえます。